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A $129,000 crocodile-skin Hermes Birkin Bag on June 21, 2007 (AFP Photo) |
本記事では、ジェーンバーキンの要請について考察を行いたいと思います。本件は時代の流れ・人々の考え方など、いろいろ示唆するところもあると思います。
まずは、ジェーンバーキンが実際にどの様な声明を行ったのかについて、振り返ってみます。
以下は、ジェーンバーキンの声明文です。
"Having been alerted to the cruel practices reserved for crocodiles during their slaughter to make Hermes handbags carrying my name... I have asked Hermes to debaptise the Birkin Croco until better practices in line with international norms can be put in place,"
訳:
私の名前が付けられたエルメスのハンドバッグを生産するために行われるクロコダイルの畜殺は苦しみ・痛みを伴う悲惨なものだとの注意を呼びかけられていました... 私はエルメスに、インターナショナルな標準に即したより良い処置が行われるまで、the Birkin Crocoの名称を変更することを求めました。
この声明文の中で、"I have asked Hermes..."と現在完了形の表現が使われています。(日本人だなと自分で思います。)
これは、声明を行う前にエルメスにはすでに要請を行っていることを意味しています。
もし、バーキンさんがエルメスに要請した時点で、直ちにエルメスがバーキンさんの望む対応をしていれば、一般に公開・報道されるような声明は行わなかったと思います。
エルメスにとって、バーキンバッグは非常に重要でブランドの象徴的な存在です。バーキンバッグの商標登録も取得しています。
バーキンさんから名前を変えて欲しいと求められても、エルメスとしては、簡単に対応できるような話ではないと思います。
一方で、バーキンさんは、エルメスの対応に満足できなかったため声明文をプレスに送ったと考えられます。
ジェーンバーキンの声明文がフランスのプレス(AFP:Agence France-Presse)より発表されたのは、7月28日です。翌29日には世界中のメディアがこぞって本件を報道しました。
AFPが報道前に、エルメスにコメントを求めたところその時点では断られたとあります。
その後、エルメスの方からバーキンさんの要請に対する声明が発表されました。(エルメスの声明については、一つ前の記事をご参照ください。)
ジェーンバーキンのエルメスに対する要望の声明がもたらす影響
今回のバーキンさんの声明は、世界中のメディアがこぞって報道しました。非常に多くの人がこのニュースを目にしたと思います。
バーキンさんがエルメスに要請を行う直接のきっかけとなったクロコダイルがどのように処理されているかについてPETAが公開したビデオは、バーキンさんの声明後、7月末の時点で2100万の視聴数に達したとPETAが発表しています。
クロコダイルに対する扱いの問題提起したPETAのページ:
(かなりショッキングな画像があるので、リンク先を見る場合は、人にもよりますが、心の準備した方が良いと思います。)
Exposed: Crocodiles and Alligators Factory-Farmed for Hermès 'Luxury' Goods
このページの下に、PETAがエルメスにクロコダイル・アリゲーターの皮を使った製品の販売をやめさせることについて要求する署名の協力を求めています。
現時点で約8万人が賛同しています。サポートする場合は、名前とメールアドレスを入れることが求められるので、かなりの賛同率・数だと思います。
クロコダイルの畜殺は、以前から問題視されていましたが、特に畜殺方法などに制限を加えるような対応はされずに至っています。
バーキンさんの声明は、多くの人がクロコダイルの虐殺について知る機会となったとも言えます。
また、彼女がどこまで意図していたかは不明ですが、声明に記載されていた内容以上の効果・影響力があると思います。
今後の展開について
エルメスにとって、現時点ではブランドイメージ的にはかなりの痛手だと思います。しかし、バーキン・バッグの名前を変えることはしないと思います。
バーキンバッグは、様々な革を使用しており、クロコダイルは一つのオプションです。
クロコダイルの使用を直ちに止めることを発表すれば、ブランドイメージとしては、逆にかなり高まると思います。
しかし、高級レザーバッグでは、エキゾチックアニマルの革が人気のため、クロコダイル革の使用をやめた場合、また別の動物の革の使用も止めるような要求が相次ぐことが予想されます。
そのため、簡単にクロコダイル革の使用を止めると発表することはできないのではないかと想像しています。
個人的な意見ですが、PETAのページやビデオを見て、クロコダイルの革製品を買おうと思う人はまずいないのと思います。
これだけ大きなニュースとなった後、バーキンのクロコダイルバッグを所有する、持ち歩いてる人に対して、否定的に見る人は相当な数に達すると思います。
例えエルメスが今後もバーキンのクロコダイルバッグの製造を継続しても、需要は激減する(すでに激減している)のではと予想しています。
バーキンさんの要請が実現できなくても、今回の声明によって間接的には、彼女の求めていたことに近いことは、実質的に達成されると思います。
時代とともに変わってきた人や動物の権利に対する考え
かつて奴隷制度が存在し、人身売買が行われることが普通だった時代がありました。
性別や人種を差別する法律は20世紀に至っても存在しました。
1960年代、人種による権利の差別への反対運動が沸き起こり、Civil Rights Actが制定されたのは1964年です。
拷問や死刑の手法についての考え方も時代とともに変わってきています。
かつては火あぶりや八つ裂き、斬首などの手法もありましたが、現代の感覚では考えられないことだと思います。
人権と同様に動物の権利や倫理についての考え方も時代とともに変わってきています。
人間だけでなく動物の権利も尊重すべきであるというのがアニマルライツの考え方です。
この考えを強く持つ人々は、動物の肉を食べることを拒否しています。
ポールマッカートニーはベジタリアンです。1970年代に、彼は動物愛護・保護する信念から最初の奥さんのリンダさんと共にベジタリアンになりました。
食用などのために動物を屠殺する場合でも、できるだけ苦痛を与えない手法をとるべきであるとの考えが、現在は主流になっています。
米国の大手自然食スーパーのWhole Foodsの肉売り場には、販売している肉は、苦痛を伴わせない処置で屠殺処理された旨の表示があります。
昔は毛皮のコートは、お金持ちの象徴でした。価格は高くても、富裕層は好んで購入して着用する人が多くいました。
今は毛皮のコートについて、好意的に思わない・嫌悪感を感じる人も少なくないと思います。
いくつか事例を挙げたように、時代とともに社会の概念や人々の考え方は変化しています。
話を戻すと、
「クロコダイルはダメで、他の動物の革だったら良いのか?」
「苦痛を与える殺し方は悪くて、苦痛を与えなければ殺しても良いのか?命を奪うことには変わらないだろう?」
という意見もあると思います。
動物愛護の観点からベジタリアンの人に対して、
「植物は食べるのだろう? 植物だって生き物だ。生き物の命を奪うことには変わりない。」
「蟻、蚊や蠅、ゴキブリだって生き物だ。それらの生き物を殺したことはあるだろう? それらの生き物は殺しても良いのか?」
いろいろな考え、価値観があるので、何が正しくて、何が間違っているというように白黒つけられるような単純なことではないことは確かです。
しかし、上で例を挙げたように、人や動物の権利についての考え方は、時代とともに変わってきているのは事実です。
昔は当たり前だったことでも、今の時代で見ると、倫理的、道徳的にもおかしいと思うことはあります。
今回のバーキンさんの要請も、後で振り返った時、社会通念の変化の大きな流れの中での一つの象徴的な出来事として歴史に残るかもしれません。
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