ここ最近3回にわたって、リーバイス本社のLVCに対する姿勢の激変について書きました。
- リーバイス本社のLVCに対する冷ややかな姿勢 - 2012年まで
- 急変するリーバイス本社のLVCへの取り組み
- LVC オレンジタブ・コレクションから推測するリーバス本社のLVC戦略と方向性
特に最初の記事で取り上げた、昨年までのLVCのリーバイス本社の取り扱いについては、日本の方にとっては意外に思う事だったのではと思います。日本では、復刻はかなり有名で、知名度と人気もそれなりにありブランドとして一定の地位を確保していると思います。
その一方、米国ではリーバイスの宣伝等には、LVCは一切登場しません。WebストアでもLVCは取り扱っていませんでした。2003年の北米生産拠点終了後以降、LVCの代わりに米国リーバイス(本社)は通常のラインの上位置するプレミアム・ラインを用意し、宣伝してきました。
昨年、リーバイスジャパン経由でも販売された”Made in the USA"の製品ラインが米国でのプレミアムラインです。リーバイス米国のホームページでは、Made in the USAを扱っており、バナー等も当然用意されていました。一方でLVCは基本的に宣伝もなく、販売チャネルも非常に限られていました。
LVCの運営はオランダがメインで、生産拠点はトルコ(Turkey)でした。昨年までLVCのホームメージを訪れると、LVCはリーバイス・ヨーロッパが主導である事、リーバイス米本社の存在が非常に希薄である事を常に感じていました。
ところが、今年に入ってからLVCのホームページの運営が米国に変更になったと思われる様になり、さらに、今月に入ってからの米国本社の強力なLVCのプロモーションと積極的な関わり方は、過去10年以上のリーバイス米本社の対応と比較して180度異なると言えるものです。
このリーバイス本社のLVCへの対応の劇的な変化について、以下、私の個人的な質問とそれに対する見解と推測を以下に書きます。
Q1). なぜリーバイス本社はLVCに対して冷ややかだったのか?
業界は異なりますが、自動車を例にとると、過去の名車、例えばトヨタ2000GT、本田S800、ヴィンテージのフェラーリ等、数々の名車があります。これらを当時と同じデザイン、スタイルで再現すればある程度の需要は見込めます。
しかし、自動車メーカーが今まで過去(かなり前)のモデルそのままを再生した事例を知りません。日産のスカイラインGT-Rはコンセプトは継承しましたが、外観やメカは全く別物です。本田のS2000もS500/600/800も同様です。
”過去の製品を再現する”ことは現実的には色々無理があります。表面上のディテールだけを似せる事はできても、似れば似る程、異なる部分が目立ちます。
長年生産されているモデルも少なくありません。それらはモデルチェンジを繰り返しながら現在に至っています。
一般的にメーカー(物を作る会社)、特に歴史のある会社は、自社製品、オリジナルに対する敬意・プライドがあります。過去の名作はその会社の伝統、歴史を支えています。コピーはオリジナルを超える事はありません。新たな魅力ある製品を開発していくことが、会社の将来のためには重要です。
この様な考え方が本社の上層部(の一部)にあったのではないかと思います。
世界で事業を展開する会社は、その地域の市場に向けた独自の製品の企画、事業運営を行うのが一般的です。LVCは日本やヨーロッパ市場で展開し、一定の成功を収めました。本社から見るとLVCは他の地域でのローカルの事業であり、米国内では異なる製品企画、ブランド戦略をとっていました。
また、上に述べた様な理由から、LVCに対してあまり好ましい印象を持っていなかったではないかと思います。
Q2). なぜリーバイス本社は、突然LVCに対して力を入れて取り組む様になったのか?
上記の様な理由から過去10年以上、プレミアムブランド・製品の開発に取り組んできたが成功しなかった。
昨年まで力を入れていた"Made in the USA"のブランドの501や505はLVCと同様にコーンミルズのセルビッジデニムを使用、フロントVステッチ等ヴィンテージの特徴を取り入れており、LVCと実質かなり近い物でした。
同じ生地を使用し、生産も米国であり、商品としては似ており、製品コストも近い物でしたが、"Made in the USA"とLVCの501の売り上げ、利益等で明確な差があったのではと想像しています。
さらに、米国内では宣伝していないにもかかわらず、国内の一部のデニム愛好家の間ではLVCはブランドとして認知されており、それなりの需要がありました。eBay等のオークションサイトでも1947モデルのリジッドの501は人気が高く、数多くの入札があり、高額で落札される事が多かったです。
米国内の市場では米国製を求める需要が根強くあります。また、ペンドルトン等では過去の人気の柄の再現をした製品を展開し、一定の成功を収めています。フィルソンでも先日の1922年のスリーブベストの復刻品などの発表にも見られる様に、伝統的な米衣料メーカーでの過去の製品を再現する商品展開が見られる様になってきました。自社の過去製品の復刻について取り組む衣料品メーカーが増えてきています。業界内、会社内において、1)で書いた様な復刻に対しての抵抗感、否定的な見方が弱まりつつあり、肯定的に捉える考え方もでてきていると思われます。
一方、LVCの海外事業(主にヨーロッパと日本)もそれ程成功しているとは思えない状態でした。LVCはトルコに専用の工場があるにもかかわらず、売れ筋の製品は米国製です。トルコ製の事業は赤字続きだったのではないかと思います。そう仮定した場合、LVCの事業も米国製以外は低調であるため、オランダのLVC事業部のパフォーマンスは低かったと考えられます。
ヨーロッパ主導のLVC事業の不振から、本社としてLVC事業運営・戦略の見直しの必要性も生じている中、新たなプレミアムブランドの構築も十数年以上取り組みながら成功していない事もあり、米国本社主導でLVCの事業展開を行う事にしたのだと思います。
今年から本社にLVCの部隊が設けられ、そこでホームページの運営、ブランド戦略も行われていると思います。
Q3). リーバイス本社が取り組む様になって、LVCの事業展開と戦略にどの様な影響、変化があったのか?
今回のオレンジタブ・ラインの発表とそれに伴うプロモーションは、今までのLVCのブランド戦略と大きく異なります。
オレンジタブ・ラインのプロモーションとして、70年代の文化、流行を全面的に押し出しています。製品はそれが作られたときの時代背景、文化と密接な関わりがあります。単に製品を宣伝するのではなく、その製品が生まれた当時の文化を宣伝し、消費者にその時代の文化に触れてもらい、認知と理解を深めることを主目的としている様に思います。
このブランド戦略がどの程度の効果をもたらすのか?そして、この新しい米国主導のアプローチが成功するのか?とても興味を持っています。
少なくとも自分の事を言うと、ここ数日、70年代の音楽をかけ続けるLVCのインターネットラジオ局KLVCを毎晩聴いています。曲を聴くと、「あ〜、そう言えば、これは70年代だったんだ!」思う曲も結構あります。
ジョンレノンやポールマッカートニーの曲を聴くと、「そうだよな。ビートルズ解散後、70年代は彼らはソロで活動したんだよな〜。」等と思ったりします。自分の中での70年代のイメージが好意的になっていくのを感じます。
と言うことで、リーバイス本社のブランド戦略は私個人にはかなり効果が出てきています。
LVCのオレンジタブは全て米国製であることを謳っています。
これもブランド戦略としては的を得ていると思います。LVCは米国製である方がブランドの訴求効果は確実に高いです。
ただし、こうなってくるとLVCのトルコ工場はどうなるのだろう?と言う疑問が浮かびます。
これは完全に個人的な意見ですが、伝統あるバレンシア工場を2002年に閉鎖したことは、大きな戦略的なミスだと思っています。バレンシア工場の規模を縮小してでも、継続させて、そこでプレミアム品の生産を続けるべきだったと思います。
しかし、既に起きてしまった事は変える事はできません。この新しいLVCの事業の取り組みが成功してくれることを期待しています。そして、成功を収めれば、リーバイスの自社工場復活も夢ではないかと思います。
LVCの今後に期待しています。
- リーバイス本社のLVCに対する冷ややかな姿勢 - 2012年まで
- 急変するリーバイス本社のLVCへの取り組み
- LVC オレンジタブ・コレクションから推測するリーバス本社のLVC戦略と方向性
特に最初の記事で取り上げた、昨年までのLVCのリーバイス本社の取り扱いについては、日本の方にとっては意外に思う事だったのではと思います。日本では、復刻はかなり有名で、知名度と人気もそれなりにありブランドとして一定の地位を確保していると思います。
その一方、米国ではリーバイスの宣伝等には、LVCは一切登場しません。WebストアでもLVCは取り扱っていませんでした。2003年の北米生産拠点終了後以降、LVCの代わりに米国リーバイス(本社)は通常のラインの上位置するプレミアム・ラインを用意し、宣伝してきました。
昨年、リーバイスジャパン経由でも販売された”Made in the USA"の製品ラインが米国でのプレミアムラインです。リーバイス米国のホームページでは、Made in the USAを扱っており、バナー等も当然用意されていました。一方でLVCは基本的に宣伝もなく、販売チャネルも非常に限られていました。
LVCの運営はオランダがメインで、生産拠点はトルコ(Turkey)でした。昨年までLVCのホームメージを訪れると、LVCはリーバイス・ヨーロッパが主導である事、リーバイス米本社の存在が非常に希薄である事を常に感じていました。
ところが、今年に入ってからLVCのホームページの運営が米国に変更になったと思われる様になり、さらに、今月に入ってからの米国本社の強力なLVCのプロモーションと積極的な関わり方は、過去10年以上のリーバイス米本社の対応と比較して180度異なると言えるものです。
このリーバイス本社のLVCへの対応の劇的な変化について、以下、私の個人的な質問とそれに対する見解と推測を以下に書きます。
Q1). なぜリーバイス本社はLVCに対して冷ややかだったのか?
業界は異なりますが、自動車を例にとると、過去の名車、例えばトヨタ2000GT、本田S800、ヴィンテージのフェラーリ等、数々の名車があります。これらを当時と同じデザイン、スタイルで再現すればある程度の需要は見込めます。
しかし、自動車メーカーが今まで過去(かなり前)のモデルそのままを再生した事例を知りません。日産のスカイラインGT-Rはコンセプトは継承しましたが、外観やメカは全く別物です。本田のS2000もS500/600/800も同様です。
”過去の製品を再現する”ことは現実的には色々無理があります。表面上のディテールだけを似せる事はできても、似れば似る程、異なる部分が目立ちます。
長年生産されているモデルも少なくありません。それらはモデルチェンジを繰り返しながら現在に至っています。
一般的にメーカー(物を作る会社)、特に歴史のある会社は、自社製品、オリジナルに対する敬意・プライドがあります。過去の名作はその会社の伝統、歴史を支えています。コピーはオリジナルを超える事はありません。新たな魅力ある製品を開発していくことが、会社の将来のためには重要です。
この様な考え方が本社の上層部(の一部)にあったのではないかと思います。
世界で事業を展開する会社は、その地域の市場に向けた独自の製品の企画、事業運営を行うのが一般的です。LVCは日本やヨーロッパ市場で展開し、一定の成功を収めました。本社から見るとLVCは他の地域でのローカルの事業であり、米国内では異なる製品企画、ブランド戦略をとっていました。
また、上に述べた様な理由から、LVCに対してあまり好ましい印象を持っていなかったではないかと思います。
Q2). なぜリーバイス本社は、突然LVCに対して力を入れて取り組む様になったのか?
上記の様な理由から過去10年以上、プレミアムブランド・製品の開発に取り組んできたが成功しなかった。
昨年まで力を入れていた"Made in the USA"のブランドの501や505はLVCと同様にコーンミルズのセルビッジデニムを使用、フロントVステッチ等ヴィンテージの特徴を取り入れており、LVCと実質かなり近い物でした。
同じ生地を使用し、生産も米国であり、商品としては似ており、製品コストも近い物でしたが、"Made in the USA"とLVCの501の売り上げ、利益等で明確な差があったのではと想像しています。
さらに、米国内では宣伝していないにもかかわらず、国内の一部のデニム愛好家の間ではLVCはブランドとして認知されており、それなりの需要がありました。eBay等のオークションサイトでも1947モデルのリジッドの501は人気が高く、数多くの入札があり、高額で落札される事が多かったです。
米国内の市場では米国製を求める需要が根強くあります。また、ペンドルトン等では過去の人気の柄の再現をした製品を展開し、一定の成功を収めています。フィルソンでも先日の1922年のスリーブベストの復刻品などの発表にも見られる様に、伝統的な米衣料メーカーでの過去の製品を再現する商品展開が見られる様になってきました。自社の過去製品の復刻について取り組む衣料品メーカーが増えてきています。業界内、会社内において、1)で書いた様な復刻に対しての抵抗感、否定的な見方が弱まりつつあり、肯定的に捉える考え方もでてきていると思われます。
一方、LVCの海外事業(主にヨーロッパと日本)もそれ程成功しているとは思えない状態でした。LVCはトルコに専用の工場があるにもかかわらず、売れ筋の製品は米国製です。トルコ製の事業は赤字続きだったのではないかと思います。そう仮定した場合、LVCの事業も米国製以外は低調であるため、オランダのLVC事業部のパフォーマンスは低かったと考えられます。
ヨーロッパ主導のLVC事業の不振から、本社としてLVC事業運営・戦略の見直しの必要性も生じている中、新たなプレミアムブランドの構築も十数年以上取り組みながら成功していない事もあり、米国本社主導でLVCの事業展開を行う事にしたのだと思います。
今年から本社にLVCの部隊が設けられ、そこでホームページの運営、ブランド戦略も行われていると思います。
Q3). リーバイス本社が取り組む様になって、LVCの事業展開と戦略にどの様な影響、変化があったのか?
今回のオレンジタブ・ラインの発表とそれに伴うプロモーションは、今までのLVCのブランド戦略と大きく異なります。
オレンジタブ・ラインのプロモーションとして、70年代の文化、流行を全面的に押し出しています。製品はそれが作られたときの時代背景、文化と密接な関わりがあります。単に製品を宣伝するのではなく、その製品が生まれた当時の文化を宣伝し、消費者にその時代の文化に触れてもらい、認知と理解を深めることを主目的としている様に思います。
このブランド戦略がどの程度の効果をもたらすのか?そして、この新しい米国主導のアプローチが成功するのか?とても興味を持っています。
少なくとも自分の事を言うと、ここ数日、70年代の音楽をかけ続けるLVCのインターネットラジオ局KLVCを毎晩聴いています。曲を聴くと、「あ〜、そう言えば、これは70年代だったんだ!」思う曲も結構あります。
ジョンレノンやポールマッカートニーの曲を聴くと、「そうだよな。ビートルズ解散後、70年代は彼らはソロで活動したんだよな〜。」等と思ったりします。自分の中での70年代のイメージが好意的になっていくのを感じます。
と言うことで、リーバイス本社のブランド戦略は私個人にはかなり効果が出てきています。
LVCのオレンジタブは全て米国製であることを謳っています。
これもブランド戦略としては的を得ていると思います。LVCは米国製である方がブランドの訴求効果は確実に高いです。
ただし、こうなってくるとLVCのトルコ工場はどうなるのだろう?と言う疑問が浮かびます。
これは完全に個人的な意見ですが、伝統あるバレンシア工場を2002年に閉鎖したことは、大きな戦略的なミスだと思っています。バレンシア工場の規模を縮小してでも、継続させて、そこでプレミアム品の生産を続けるべきだったと思います。
しかし、既に起きてしまった事は変える事はできません。この新しいLVCの事業の取り組みが成功してくれることを期待しています。そして、成功を収めれば、リーバイスの自社工場復活も夢ではないかと思います。
LVCの今後に期待しています。
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